「芸能事務所」と聞いて、どんな仕事を思い浮かべますか?
所属しているタレントのマネジメント(育成・プロデュース)を行い、出演料の一部を受け取る事業はイメージしやすいと思います。では、YouTuber事務所は?
そこでクイズです。UUUMの損益計算書はどちらでしょう?
- 登場企業紹介
- UUUM
- 日本最大のYouTuberマネジメント事務所。ユーチューバーのマネジメントや業務サポートを行う。
- アミューズ
- 日本の大手芸能事務所。サザンオールスターズ、福山雅治、大泉洋、星野源、ポルノグラフティ、 Perfume、吉沢亮、吉高由里子などが在籍。
会計クイズヒント
2社の売上内訳が決算書に掲載されていました。
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UUUMは「クリエイターサポートサービス」が235億円、「自社サービス」が10億円で計245億円。
クリエイターサポートサービスの内訳はアドセンスが143億円、広告が66億円、その他が26億円です。
アミューズは「イベント関連事業」が178億円、「音楽・映像事業」が165億円、「出演・CM事業」が55億円で合計398億円です。
会計クイズ正解
UUUMの損益計算書は①でした。両社の主な違いは営業利益率です。
事業内容
UUUMとアミューズは何が違うのでしょうか。両社の有価証券報告書に書かれている事業内容を見ていきましょう。
UUUM:アドセンス収益とタイアップ収益
UUUMはYouTuberをはじめとするコンテンツを発信している個人を「クリエイター」と呼んでおり、事業は「クリエイターサポートサービス」と「自社サービス」に分かれています。
クリエイターサポートサービスでは、所属YouTuberなどがより本領を発揮できるようにプロデュースを行っています。
クリエイターサービスの例
- 個人では難しいイベント企画・グッズ販売・動画編集のサポート
- 企業の商品をプロモーションする「タイアップ案件」の紹介
- クリエイター同士の共演機会の提供
- 確定申告など事務作業のサポート
2021年6月時点のYouTubeチャンネル登録者ランキングではトップ10のうち4チャンネルがUUUM所属のクリエイターです。
UUUM所属の上位チャンネル
- HikakinTV
- はじめしゃちょー(hajime)
- Fischer’s-フィッシャーズ-
- 東海オンエア
クリエイターサポートの収益は大きく2つあり、1つは広告の再生数に応じてYouTubeから支払われるアドセンス収益です。クリエイターのアドセンス収益は一旦UUUMが受け取り、一部をクリエイターに支払います。
もう一つはタイアップ動画による広告収益です。クリエイターはUUUMのクライアントである企業の商品やサービスを紹介する動画を作成します。UUUMは企業から広告料を受け取り、一部がクリエイターに支払われます。
アドセンス収益モデル・タイアップ動画収益モデル共に原価はクリエイターへの支払いです。クリエイターサービスのKPIの中には所属チャンネル数・動画再生回数があり、所属チャンネル数は2017年から2021年の5年間で約5倍伸びています。
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一方で動画再生数は2020年度4Qから減少しています。2020年はステイホームによる再生回数の急激な増加があり、その反動で2021年度は視聴回数が相対的に減ったようです。
決算説明書では、ステイホーム後の影響を除けば再生回数は増加傾向と述べられています。
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ところで再生回数に伴って2021.1~4Q以降のアドセンス収益は減っているのでしょうか?UUUMの有価証券報告書によると、所属チャンネル数の増加によってアドセンス収益は前年同期比10%増です。
再生回数は減少しているのにアドセンス収益が増加しているということは、チャンネルごとに1回再生当たりの広告料(単価)が異なっていると想定されます。UUUMがスカウト等によって人気の高いチャンネルと契約した結果、動画1回当たりの平均広告単価が高くなったのでしょう。
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クリエイターサービス以外の事業は自社サービスと呼ばれ、自社のYouTubeチャンネルや提携チャンネルの運営・番組制作を行っています。また、YouTubeでの実況に利用できるゲームも開発しており、広告料やゲーム内の課金が収益として計上されます。
アミューズ:「イベント」「音楽・映像」「出演・CM」
アミューズは所属タレントをアーティストと呼び、アミューズのセグメントは「イベント関連事業」「音楽・映像事業」「出演・CM事業」に分かれています。
- イベント関連事業
- コンサート・舞台・ファンクラブ・グッズ販売の売上。いずれも収益がイベントと連動
- 音楽・映像事業
- 音楽・映像作品(CD・DVD)の販売、作品から発生する印税
- 出演・CM事業
- 所属アーティストのテレビ・映画・新聞・雑誌・CMなどのの出演料
セグメントごとの売上と利益を見てみましょう。2020年度はコロナの影響でイベント関連が赤字となったので、2019年度で比べてみます。
売上構成はイベント関連が71%、音楽・映像が19%、出演・CMが10%でした。イベント関連が売上の大部分を占めていることが分かります。
一方で営業利益はイベント関連が36%、音楽・映像が36%、出演・CMが28%と、ほとんど三分割されています。
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これらのグラフから、音楽・映像事業と出演・CM事業の利益率が高いことが分かります。
セグメントごとの営業利益率は、イベント関連が4%、音楽・映像が17%、出演・CMが24%です。 音楽・映像や出演・CMに比べて、イベント関連は利益率が低いことが分かります。
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なぜイベント関連は利益率が低いのでしょうか?ライブのようにリアルで開催されるイベントは開催されるたびに演出・運営費用がかかります。
ライブに必要な費用の例
- 宣伝広告費
- 会場使用料
- 音響
- 照明
- 舞台制作
- アーティスト出演料
- 運営スタッフの人件費、お弁当代
- チケット決済手数料 など
一方で音楽・映像事業はライセンス料がほとんど自動で入ってくるので人件費がかかりません。CD・DVDも複製が簡単なメディアなので利益率が高くなります。
テレビ・CMの出演料に関しては、お笑いでは事務所の取り分が9割、芸人の取り分は1割と噂されるぐらい事務所の力が強いようです。芸能人は0から育成する必要があるので、既に人気が出ているYouTuberをサポートするより事務所の取り分は大きそうです。
ちなみに2020年度のセグメント利益率は、イベント関連が-0.4%、音楽・映像が14%、出演・CMが23%です。
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今後の戦略
UUUMがYouTubeを主戦場としているのに対し、アミューズの主戦場はテレビだけでなく、むしろオフラインのイベント関連やメディアの印税・販売による売上が高いことが分かりました。
UUUMとアミューズは、今後どのような戦略をとっていくのでしょうか。
YouTube依存を脱却したいUUUM
まずUUUMの決算説明資料からは、早急にYouTubeへのプラットフォーム依存を解消したいという意図が読み取れます。
・2022年5月期は、2021年5月期に成長の兆しが見えてきた事業に対して積極的な投資を行い、2023年5月期以降の成長につなげていく1年。具体的には、クリエイターブランド、YouTube以外のPF収益、音楽事業、NFT事業など。
・22/5期はクリエイターブランドやNFT事業など、成長事業への投資期となるため、中期目標は1年後ろ倒しさせていただき、23/5期から成長軌道にのせていきます。
UUUM2021年5月期決算説明資料より
UUUMは2020年7月に発表した中期目標で2022年5月期の営業利益を13億円に設定していましたが、成長事業の投資のために8.3億円に修正しました。
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2022年度を投資期とした背景には事務所同士の競争激化や、他社のプラットフォーム(YouTube)に依存していることへの危機感が、有価証券報告書の「事業のリスク」から読み取れます。
現在、国内オンライン動画関連事業を展開する競合企業は複数存在しており、(中略)新規参入により競争が激化した場合には、当社グループの事業及び業績に重要な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループの動画コンテンツ事業はYouTube等の他社が運営する動画配信サービス上において、サービスを提供しております。そのため、動画配信サービスの運営会社の事業戦略の転換によって、(中略)当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
UUUM2021年5月期有価証券報告書より
ちなみにUUUMは2020年4月に2020年5月期の業績予測を下方修正しており、その理由はYouTubeにおけるシェアが低下してアドセンス収益が見込みを下回ったからでした。
参考:通期業績予測の修正に関するお知らせ
UUUMの脅威はYouTubeの中だけではありません。ショートムービー配信サービスのTikTokは2021年12月にクリエイターの収益に本腰を入れる施策として「Creator Next」を発表しました。
各プラットフォームによるクリエイターの囲い込みが本格化しており、YouTuberが他のメディアに乗り換える可能性も出てきています。
参考:ITmedia NEWS 「TikTok、クリエイター収益化ツールを拡充 投げ銭などが可能に」
これらの状況をふまえて、2021年度はTikTok・インスタグラムなどYouTuber以外のマネジメントにも力を入れるようです。
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UUUMが2021年度までを投資期としていることをふまえると、UUUMがアミューズより営業利益率が低く販管費率が高いのは、事業の特性だけではなく新しく始める事業への投資によって費用が増えているからとも考えられます。投資によって増える代表的なコストは広告費と人件費です。
UUUMの主な販管費の項目をみると、「給料手当」「賞与引当金繰入額」「地代家賃」のみ記載されており、広告費にはお金をかけていないようです。一方で売上に占める「給料手当」はアミューズが2.9%、UUUMが9.3%で、事業拡大のために人材を採用している可能性があります。
有価証券報告書では販管費の増加要因として、人員が増えたことによる給与の増加があげられています。新規事業のために従業員を増やしているならば、投資が回収されるにつれて人件費率は下がるでしょう。
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一方で決算説明資料では販管費が増えた要因は、「営業利益の増加に伴う賞与引当金(営業利益連動)」であると説明されています。この場合、給与体系を変えない限り人件費率は今後も維持されるでしょう。
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人件費率の高さが一時的か恒常的かが分かるのは、2021年度の投資期が終わってからになりそうです。
オンラインにシフトしたいアミューズ
オフラインイベントの売上が主軸のアミューズですが、コロナでリアルイベントの先行きが不安定になったのをきっかけに、オンラインライブに力を入れています。2020年度のイベント動員数は90%がオンラインでした。
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オンラインを実現する手段としてテコ入れしているのが自社サービスです。日本初の音声版サブスクリプション「NUMA」や、ライブのストリーミング配信「LiVESHiP」など、インターネットを活用した新規事業を次々と打ち出しています。
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まとめ
- UUUMはYouTuberのアドセンス・タイアップ広告が主な収益
- アミューズはイベント、メディアの販売・印税、アーティストの出演料が主な収益
- アミューズの映像・音楽事業と出演・CM事業は利益率が高い
最後までお読みいただきありがとうございました!