業界裏話

たこ焼きの原価率は低いのか?決算書から検証してみた~飲食店の原価率

たこ焼きパーティーをしたことがありますか?

学生でも気軽に食べれるたこ焼きは材料費が安いイメージですが、たこ焼きは原価率が低いのか気になりました。

屋台のたこ焼きは売値500円で材料費が150円(原価率30%)ほどだそうですが、ここではフードコートなどに出店しているたこ焼き屋の原価率をグラフを使って決算書から調べていきます!

ピックアップした外食チェーン

たこ焼きで異例の上場を果たした企業が「築地銀だこ」を率いるホットランドです。

銀だこの原価率・利益率が高いのか分かるように、たこ焼き以外の主要な飲食業の決算とも比較していきます。

決算書はコロナの影響を考えなくていいように、2019年1~12月に開示された有価証券報告書を使用しました。

日本でもっとも売上が大きい飲食グループはゼンショーホールディングスです。

すき家・なか卯・COCO’Sなど21ブランドを展開し、2019年3月期の売上は6077億円です。
飲食店のコングロマリット(複数の事業を持つ巨大企業グループ)と例えられます。

そのほか、主要製品が異なるマクドナルド・吉野家・くら寿司をピックアップしています。
売上はそれぞれマクドナルドが2723億円、吉野家は2024億円、くら寿司は1325億円、ホットランド(銀だこ)は317億円です。

主要外食チェーンの売上高(連結)
2019年有価証券報告書をもとに作成

店舗数はゼンショーホールディングスが9509店、マクドはルドが2899店、吉野家が3150店、くら寿司が453店、ホットランドが659店です。

主要外食チェーンの店舗数(連結)

マクドナルド・くら寿司が売上高に比べて店舗数が少ないのは、幹線道路沿いに大きな駐車場・席数の店舗を持ち、1店舗当たりの売上が大きいからです。対照的に吉野家・ホットランドはイートインや商店街など店舗面積が狭い店舗の割合が多いです。

レイ
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幹線道路沿いの吉野家は「吉野家×はなまるうどん 飾磨浜国通り店」のように傘下のはなまるうどんとつながっていたりします。

たこ焼きの原価率

ホットランドは2014年にマザーズ、2015年に東証一部に上場しています。

決算書には「売上原価」という項目があり、原価率を求めることができます。売上原価には材料費の他に、商品を製造するためにかかる費用が計上されます。
原価率の目安は製造業が60~70%、飲食業やアパレルなど接客の人件費がかかる業種は20~40%です。

人件費は売上原価と販管費に分かれます。

売上原価は商品を製造するための工員の給与、販管費は人事など管理部門の人件費が該当します。
飲食業の場合、厳密にはキッチンの人件費は売上原価、ホール・接客の人件費は販管費に計上されます。

キッチンとホールを兼務するアルバイトもいる場合は、売上原価販管費のどちらかによせて計上していることも多いです。

ゼンショーホールディングスの原価率は43%、マクドナルドは81%、吉野家は36%、くら寿司は46%、ホットランドは41%でした。

銀だこの原価率41%は他のチェーンと比べても低くないことが分かります。
ホームページによると、銀だこはたこ焼き8個で538円(税抜)で、原価率41%で計算すると原価は220円になります。

主要外食チェーンの売上原価率(連結)
2019年有価証券報告書をもとに作成

人件費が異常に低いマクドナルド

マクドナルドは原価率が他の外食チェーンに比べて大きすぎるので、他社で販管費に計上している人件費が原価に寄せられている可能性があります。

有価証券報告書の販管費の内訳には広告費・家賃などがありますが、人件費も記されています。

販管費の人件費のみ抜き出して比較すると、マクドナルドは3%しかないため、管理部門の人件費のみと想定されます。

他はゼンショーホールディングスは23%、吉野家は29%、くら寿司は25%、ホットランドは16%です。

販管費に含まれる人件費の対売上比率(連結)

原価が高いほど利益も高い?

売上原価が高いマクドナルド、販管費に含まれる人件費が高いその他の企業のうち、どの企業の営業利益が大きいでしょうか?

売上に占める営業利益率(売上ー売上原価ー販管費)を見てみると、マクドナルドが9.2%と一番大きいです。

次がくら寿司の5.2%、ゼンショーホールディングスが3.1%、ホットランドが2.7%、吉野家が0.1%です。

通常は売上原価は低いと利益率が高くなりますが、面白いことに今回の登場企業では売上原価が高い会社ほど営業利益が低い傾向にあります。

主要外食チェーンの営業利益率(連結)

マクドナルドは先ほど見たように売上原価率が81%、営業利益率が9.2%です。

売上原価率が36%でもっとも低い吉野家は、営業利益率が0.1%です。

銀だこの営業利益率は高くないですが、研究開発費が高いのが特徴です。
研究開発費は革新的な商品開発でないと認められないため、計上するハードルが高いです。

ゼンショーホールディングス・吉野家は研究開発費がなく、マクドナルドは2.8億円、くら寿司は780万円、ホットランドは1650万円です。
売上高の規模や利益率を考えると、ホットランドは大きな額を将来の投資に当てています。

レイ
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研究開発費でどんなことをしているかは最後の章に書いてあります。

この逆転がどこで起こっているかさらに詳しく見るために、売上に占める「売上ー売上原価ー販管費に含まれる人件費」の割合を比べてみます。

売上ー売上原価ー販管費に含まれる人件費

ゼンショーホールディングスは34%、マクドナルドは11%、吉野家は35%、くら寿司は29%、ホットランドは43%でした。まだマクドナルドに残っている利益は他より小さいです。

ここから人件費以外の販管費(広告宣伝費、家賃、水道光熱費、建物の減価償却費)などで逆転が起こっていると考えられます。

利益が低いのは家賃のせい

主な販管費の内訳で、マクドナルド以外は地代家賃が入っていたので売上に占める地代家賃を比べたところ、営業利益率が低い吉野家・ホットランドは10%を超えています。
ゼンショーホールディングスは9%、くら寿司は6%です。

売上に占める地代家賃の割合

売上に占める地代家賃が低い会社ほど営業利益率が高いので、飲食業の利益率は地代家賃に連動するコストの影響が大きいようです。

決算書には販管費の10%以上を占める項目を公開しなければならない規則があり、地代家賃を公表していないマクドナルドは10%以下ということになります。(グラフでは便宜上0とします。)

地代家賃・人件費以外の主な販管費の割合は広告宣伝費です。
マクドナルドが2%、くら寿司3%、ホットランド2%で、ゼンショーホールディングスと吉野家は主要な項目に広告宣伝費が入っていませんでした。

広告費はよく目にするためお金がかかっているように感じますが、地代家賃に比べると影響は限定的であり、利益率との関係も薄そうです。

売上に占める広告宣伝費の割合
2019年有価証券報告書をもとに作成

マクドナルドは不動産業

マクドナルドだけ地代家賃が0でしたが、実はマクドナルドは土地を貸すことで利益を上げているため不動産業と呼んでいる人もいます。

あまりイメージがないかもしれませんが、マクドナルドの店舗には直営とフランチャイズがあり、フランチャイズ店の割合は2021年11月時点で71%です。

フランチャイズ契約を結ぶと、本部はフランチャイズオーナーに土地・建物を貸し、ロイヤリティー(ライセンス使用料)に加えて地代家賃を回収します。

家賃が回収できる分直営店よりもフランチャイズの方が儲かるので、マクドナルドはフランチャイズを増やしたり直営店をフランチャイズに転換しています。

銀だこのこだわりとは?

たこ焼きについて話を戻しますが、ホットランドの原価率は予想より高く、営業利益は低く感じなかったでしょうか?

もちろん家で作るたこ焼きと同じではないですが、銀だこのこだわりを言える人は少ないのではと思います。以下ではホームページに書いてある主なこだわりと決算書への影響を考えていきます。

こだわりポイント
  • たこ
  • 具材
  • ネタ
  • トッピング
  • 鉄板

たこ

出典:https://www.gindaco.com/gindaco/

築地銀だこ一番のこだわりを誇るのがたこです。世界中から厳選したたこを独自の方法で丁寧に手切りします。この切り方によって噛めば噛むほど旨みを出す、プリっとした触感のたこになります。

自社調達であれば世界中からたこを集める冷蔵の物流費、たこを切るための人件費が売上原価として計上されますが、商社から買うとマージンをとられるので最終的に安くすみます。また、たこは各店舗で処理するのではなく1箇所にまとめて切ると想定されるので加工のための場所代も必要です。

包丁は間接材料費として原価に計上されます。切ったたこを運ぶ運送費は原価になります。

具材

具材
出典:https://www.gindaco.com/gindaco/

たこ焼きに合う味・大きさのネギを調達し、秘伝のだしが入った天かすを製造しています。
紅しょうがは味にむらが出ないように特殊なカッターで切ります。

ネギ・ショウガを切るための場所・設備・人件費が必要です。オリジナル天かすや秘伝のだしを作る人件費・減価償却費は売上原価に計上されます。

ネタ

表面はパリッ、中がトロッとしている触感はオリジナルミックス粉を手間ひまかけて水と混ぜ合わせることで再現できます。煮干し・えび粉・かつおだし・のりは味・香りにこだわり、ネタは新鮮なものだけ使われます。

オリジナルミックス粉の製造費用が必要です。原料を仕入れてからネタにするぶん、在庫を保持する期間が長くなります。

ホットランドが持っている在庫(棚卸資産回転期間)は平均71日です。
食品・生ものを扱う業者の中では長い方でしょう。くら寿司が保有している在庫は14日分です。

鮮度を保つために古くなったネタを廃棄する場合は、たな卸減耗として廃棄分の材料費が売上原価に上乗せされます。

トッピング

削り節は厳選された原料をブレンドし、細かく削ります。

かつお節のブレンド・掘削を行う設備・人件費が売上原価に計上されます。

鉄板

ネタを流し込んだときに温度が急に低くならない、厚みのある鉄板を自社製造しています。

岩手県南部鉄から作った自社製造のオリジナル鉄板です。ネタを流し込んでも温度が急に下がらないように厚みがあります。
くぼみのふちは千枚通し(たこやきをひっくり返す先が針状の棒)を使いやすいように角を取り、斜めにカットしています。

油がほどよく染み込んだたこ焼きがカリっと焼きあがるように表面塗装はせず、凹凸を残すなど細部にも工夫がこらされています。

鉄板を自社製造するための製造費用が必要です。加えて、オリジナル鉄板を開発するための企画・設計・テスト費用が販管費に計上されます。

出典:https://www.gindaco.com/gindaco/

中国で製造しています。薄く削った白樺を乾燥させ、ロゴマークを焼印し、のり付けします。たこ焼きの余分な油や水分を吸収して、パリッとした触感を保つ役割も果たします。

オリジナル商品なので舟を作るための人件費、中国からの運送費が原価に計上されますが、商社から包装容器を買うとマージンがとられるので、銀だこの規模があれば最終的にコストを抑えられるでしょう。

製造のための工場や設備も必要です。白樺を乾燥させる時間は在庫の保有期間(棚卸資産回転期間)を長くします。

世界で立ち上げたタコ漁業、世界初の養殖へ

ホームページに書いてある商品へのこだわりすら全然知りませんでしたが、銀だこが発展した背景にはもっと大規模な事業が動いていました。

銀だこは1988年、佐瀬氏が愛車を売った40万円を元手に群馬で始めたたこ焼き屋がルーツです。売上は1日350円の時もあったそうです。

レイ
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築地が発祥だと思っていました

半年以上全国のたこ焼きを食べ歩いて独自の味を確立した後、売上は順調に伸びて店舗は100店を超えました。

店舗が多くなると、次に問題となったのがタコの輸入です。銀だこは300店舗を超えた頃には日本のタコ輸入量の1割以上に当たる年間2000トンを仕入れていました。

安定調達が難しくなると、タコやトッピングで前章に述べられているほどの品質を用意できなくなりました。

そこで実施した対策が、商社を介さずに直接漁業と契約する自己調達です。タコをとらない・食べないアフリカの国にも出向いて一からタコ漁業を指導しました。

世界で初めて本格的なタコ養殖にも挑戦しています。高い研究開発費率はタコ養殖など新しいことに挑戦している証拠と言えるでしょう。

普通は材料の調達にリスクがあるたこ焼き事業を続けるという判断は難しいですが、高瀬氏は反対されながらも300店舗を超えるまでたこ焼き屋のみで事業を続けたところに差別化・成功要因があったようです。

まとめ

銀だこの数々のこだわりを知り、原価率が低いイメージは完全に払しょくされました。

また、自社漁業やオリジナル原料の製造にかかる費用を考えると膨大な原価率になりそうですが、自動たこ焼き機の開発などで効率化されているようです。

ホットランドは2014年に子会社化したアイスクリームの「COLD STONE CREAMERY」がコロナで苦戦し、東京から撤退しました。今度はコンビニ用アイスの製造など、違う形で多角化を試みています。

今後も通常とは違う経営スタイルを打ち出すホットランドの動向が楽しみです。

最後までお読みいただきありがとうございました!

参考URL:東洋経済:たこ焼きの銀だこが、上場を果たしたワケ

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