業種別指標

「棚卸資産回転率」業界目安の完全版~今日の在庫、何回おかわりしたら一年分?

こんにちは!レイです!

「業界目安の完全版」シリーズ第12回は棚卸資産回転率です。

29業種の大手企業をグラフで比較しているので、業種や企業によってどのくらいの差があるのか一目で分かります。

棚卸資産回転率とは

棚卸資産回転率は効率性分析の一つで、商品の在庫を効率よく保有できているかが分かり、在庫管理に使用されます。

棚卸資産とは売れる前の商品(在庫)のことで、流動資産の1つです。

製造中の製品や材料も棚卸資産含まれます。

回転とは、商品を作って(仕入れて)販売するまでのサイクルです。

棚卸資産回転率は、商品原価を棚卸資産で割って求めます。

棚卸資産回転率 = 売上原価 / 棚卸資産

棚卸資産回転率は、1年分の商品原価が期末時点の棚卸資産(商品)の何回分にあたるかを表します。単位は「回転」です。

棚卸資産回転率は高いほうが売り上げるスパンが短く効率がいいと言われていますが、高すぎると在庫不足を起こします。

逆に低い場合は、不良在庫が存在している可能性があります。

棚卸資産回転率の目安

棚卸資産回転率の一般的な目安は以下の通りです。

  • 5回以下:棚卸資産の回転率が低く、不良在庫がないか調査する必要がある。
  • 6~10回:回転率が高いとは言えないため、在庫を見直すなどの対策が望ましい。
  • 11~22回:平均的な回転率。1カ月に1度以上棚卸資産が回転できている。
  • 23回以上:非常に高い回転率。1カ月に2回以上棚卸資産が回転できている。

製造業は原材料から製品になるまで在庫を保有する期間が長く、棚卸資産回転率は小さくなる傾向があります。

流通業は商品を仕入れてから販売するまでの期間が短いため、棚卸資産回転率が高くなりやすいです。

運輸業など棚卸資産自体が少なく、従業員や設備の稼働によって売上が上がる業種も棚卸資産回転率が高くなります。

効率性を比べるときは、同じビジネスモデルの会社同士か、1つの会社を時系列で比べる必要があります。

業種別棚卸資産回転率の比較

証券取引所の金融を除く全29業種について、売上高1~3位の企業の棚卸資産回転率をグラフにしています。
※2020年10月~2021年9月に開示された有価証券報告書を参照

計算はバフェットコードEXCEL財務分析ツールを使っています。

業種によって回転率にどのくらいの差があるのか確認してみてください。

レイ
レイ
補足・考察がある業界は下線で強調しています。

倉庫・運輸関連

上組は287.44回、三井倉庫ホールディングスは258.71回です。

倉庫・運輸業の棚卸資産には燃料費や梱包材などが含まれます。

陸運業

日本通運は69.25回、東日本旅客鉄道は9.1回、東海旅客鉄道は20.12回です。

陸運業の棚卸資産には燃料費や梱包材などが含まれます。

サービス業

博報堂DYホールディングスは50.62回です。

サービス業は在庫を持つ必要がないビジネスが多く、棚卸資産回転率が高くなりやすいです。

博報堂は広告をスポンサーから仕入れてテレビ局に販売するビジネスで、棚卸資産に仕入れた広告の費用が含まれます。回転率の高さから、仕入れた広告をすぐにテレビ局などに販売できる仕組みを作っていることが分かります。

鉱業

INPEXは4.79回、石油資源開発は12.6回、日鉄鉱業は4.11回です。

パルプ・紙

王子ホールディングスは4.85回、日本製紙は3.76回、レンゴーは9.12回です。

食料品

日本たばこ産業は1.66回、アサヒグループホールディングスは7.01回、キリンホールディングスは4.81回です。

海運業

日本郵船は36.56回、商船三井は30.76回、川崎汽船は15.53回です。

情報・通信業

ソフトバンクグループは21.71回、KDDIは41.94回です。

建設業

大和ハウス工業は2.81回、積水ハウスは2.08回、大林組は10.24回です。

建設業の棚卸資産は主に5つです。

  • 販売用不動産
  • 仕掛品(未成工事支出金)
  • 原材料
  • 商品・製品
  • 貯蔵品

大和ハウス・積水ハウスは戸建て住宅・賃貸住宅をメインで扱っており、建物を建設してから販売するため一定の在庫を持つ必要があります

対照的に大林組は公共施設・オフィス・インフラをメインに扱っており、受注してから建設するので在庫を抱える必要がなく、回転率が高くなります

また、売上原価の6割以上を外注しているのも回転率が高くなる要因です。

卸売業(商社)

三菱商事は8.36回、伊藤忠商事は9.55回、三井物産は11.7回です。

卸売業(商社以外)

メディパルホールディングスは18.08回、アルフレッサホールディングスは16.14回、三菱食品は32.3回です。

化学

三菱ケミカルホールディングスは4.04回、富士フイルムホールディングスは3.17回、住友化学は2.96回です。

その他製品

任天堂は5.73回、凸版印刷は8.75回、大日本印刷は6.54回です。

繊維製品

東レは4.08回、帝人は3.42回、東洋紡は2.92回です。

水産・農林業

マルハニチロは4.78回、日本水産は3.68回、極洋は4.79回です。

ガラス・土石製品

AGCは3.83回、太平洋セメントは7.41回、TOTOは3.92回です。

金属製品

LIXILは5.04回、東洋製罐グループホールディングスは4.47回、日本発條は7.68回です。

空運業

ANAホールディングスは9.05回、パスコは84.79回です。

パスコはセコムの子会社で、航空写真撮影や人工衛星のデータを活用した災害モニタリングのサービスなどを行っています。

注文を受けてから納品するビジネスなので在庫を持ちません。

ANAの在庫には空港の土産物店「ANA FESTA」の在庫などがあります。

また、子会社のANAフーズはコンビニなどに生鮮食品・加工食品をおろしており

日本で販売されるバナナの約10%を取り扱っています。

輸送用機器

トヨタ自動車は7.34回、本田技研工業は6.75回、日産自動車は3.86回です。

非鉄金属

住友電気工業は3.94回、三菱マテリアルは2.56回、古河電気工業は4.5回です。

小売業

イオンは6.56回、セブン&アイ・ホールディングスは9.92回、ファーストリテイリングは2.47回です。

電気機器

日立製作所は3.95回、パナソニックは5.67回、三菱電機は4.06回です。

鉄鋼

日本製鉄は3.16回、JFEホールディングスは3.71回、神戸製鋼所は2.81回です。

ゴム製品

ブリヂストンは3.88回、住友ゴム工業は3.69回、横浜ゴムは3.47回です。

不動産業

三井不動産は0.83回、飯田グループホールディングスは2.53回、三菱地所は2.45回です。

石油・石炭製品

ENEOSホールディングスは5.07回、出光興産は5.76回、コスモエネルギーホールディングスは7.35回です。

機械

三菱重工業は4.37回、ダイキン工業は3.01回、小松製作所は2.03回です。

精密機器

オリンパスは1.7回、テルモは1.64回、ニコンは1.25回です。

半導体などの繊細な商品は、出荷前のテストで不合格になる不良品も多く、仕入れた原材料のうち完成品として販売される量は少ないです。

CPUなどコンピュータ用の部品は、高い基準をクリアした商品が高価なモデルとして出荷され

合格しなかった商品は基準の低い安価なモデル(記録できる容量を減らすなど)として販売されます。

このように1つのの生産ラインで複数の商品を展開することで、市場の需要を満たしています。

医薬品

武田薬品工業は1.32回、大塚ホールディングスは2.53回、アステラス製薬は1.5回です。

医薬品は人体に直接影響を及ぼすため、薬事法とGMP基準によって高い品質の製造・維持管理が求められています。

GMP基準とは厚生労働省の省令で医薬品の製造をする者が守るべき内容を定めたものです。

薬は多くの品質保持期限が設定されており、廃棄される在庫もあります。

これらのことから医薬品は回転率が低くなります。

電気・ガス業

東京電力・関西電力・中部電力は決算項目が異なるため、売上原価は不明です。

まとめ

  • 棚卸資産回転率は在庫から効率よく売上をあげているか分かり、高いほど経営の効率がいい
  • 棚卸資産回転率 = 売上原価/棚卸資産
  • 在庫を持たないビジネスでは棚卸資産回転率が高くなる
  • 製造工程が多い業界や不良品が多く出る商品は棚卸資産回転率が低くなる

最後までお読みいただきありがとうございました!

参考URL:
棚卸資産回転率(回転期間)とは?高い程いいの?計算や経営分析方法を解説
棚卸資産回転率とは?定義や計算方法、評価方法についても解説!
棚卸資産回転率で経営分析をする方法とは
小田公認会計士事務所【製薬】製造・在庫プロセス~在庫管理~
「棚卸資産(在庫)の正しい認識」

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