こんにちは!レイです!
これまで「収益性分析(売上に対する利益の割合)」と「売上・利益の金額規模」を業種別に比較しましたが今回からは「効率性分析」を扱います。
「業界目安の完全版」シリーズ第11回は総資産回転率です。
29業種の大手企業をグラフで比較しているので、業種や企業によってどのくらいの差があるのか一目で分かります。
総資産回転率とは
総資産回転率(総資本回転率)は効率性分析の一つで、売上高を総資産で割って求めます。
効率性分析では、会社の資産・負債から効率よく売上・利益を生み出せているかが分かります。
同じ売上高の会社が2社あるときは、総資産が少ない方が効率性のいい会社です。
安全性分析は貸借対照表、収益性分析は損益計算書のみを使いますが
効率性分析では貸借対照表と損益計算書のどちらも使います。
総資産回転率は総資産(資産・負債)が売上を得るために何回転したかを示し、単位は「回転」です。
総資産回転率は高いほどよく、1回転以上だと会社は1年間で総資産以上の売上を上げていることになります。
総資産回転率を上げるには、製造工程を効率化し、商品を短期間で売上・回収する必要があります。
総資産回転率の目安
総資産回転率は「1.0」を超えているかがひとつの目安です。
しかし業種によって総資産回転率の平均は異なり
効率性を比べるときは、同じビジネスモデルの会社同士か、1つの会社を時系列で比べる必要があります。
ここでは2020年に公開された有価証券報告書から総資産回転率の中央値をランキングにしました。
※金融業は決算項目が特殊であるため除外
![](https://kaikeiei-gaku.com/wp-content/uploads/2021/10/image-31.png)
ランキングのトップは小売業の1.6回です。
小売業・卸売業など、固定資産を多く持たず、在庫の回転が速い業種が上位になります。
逆に固定資産が大きく、何年もかけて回収するビジネスでは総資産回転率は小さくなります。
業種別総資産回転率の比較
先ほどのランキングに掲載した全29業界について上場企業の売上高1~3位の企業をグラフにしています。
※2020年10月~2021年9月に開示された有価証券報告書を参照
計算はバフェットコードとEXCEL財務分析ツールを使っています。
グラフの最大値は原則1.0ですが、総資産回転率が1を超える会社がある場合は
バーを紺色に塗りつぶし、グラフの最大値を大きくしています。
業界売上トップ3社の総資産回転率が、業界中央値より低くなることもあります。
大企業は多角化経営を行っている場合が多く、本業より総資産回転率が低くなる構造の事業を展開していたり、
長年の経営で収益に貢献していない遊休資産を抱えがちになることが一因です。
また、1年間の売上で計算するため、コロナの打撃を受けた企業は売上が減ったのと同じ割合で総資産回転率も低くなります。
業界は総資産回転率ランキングの高い順で紹介していきます。
小売業
業界中央値は1.6回、イオンは0.75回、セブン&アイ・ホールディングスは0.83回、ファーストリテイリングは0.83回です。
イオンの主なセグメントの総資産回転率(2020年度)
- GMS(総合スーパー事業):2.07回
- SM(スーパーマーケット):2.68回
- ヘルス&ウエルネス:2.01回
- 総合金融:0.08回
- ディベロッパー:0.15回
金融業は銀行で預けられた預金が資産を大きくするため、総資産回転率が低くなります。
卸売業(商社)
業界中央値は1.6回、三菱商事は0.69回、伊藤忠商事は0.93回、三井物産は0.64回です。
卸売業(商社以外)
業界中央値は1.6回、メディパルホールディングスは1.91回、アルフレッサホールディングスは1.98回、三菱食品は3.77回です。
食料品
業界中央値は1.2回、日本たばこ産業は0.39回、アサヒグループホールディングスは0.46回、キリンホールディングスは0.75回です。
水産・農林業
業界中央値は1.2回、マルハニチロは1.62回、日本水産は1.38回、極洋は2.14回です。
サービス業
![](https://kaikeiei-gaku.com/wp-content/uploads/2021/11/image-14.png)
業界中央値は1.1回、日本郵政は0.04回、リクルートホールディングスは1.03回、博報堂DYホールディングスは1.38回です。
建設業
業界中央値は1.1回、大和ハウス工業は0.82回、積水ハウスは0.93回、大林組は0.78回です。
情報・通信業
業界中央値は1回、日本電信電話は0.52回、ソフトバンクグループは0.12回、KDDIは0.5回です。
ソフトバンクの総資産回転率が低い理由は、投資利益が大きいからです。
総資産回転率を計算するとき、売上には事業以外の収益(配当金・賃貸収入)は含まれません。
一方で資産には金融資産(株式など)が含まれるため、総資産回転率の計算では分母のみ大きくなり、計算結果に総資産回転率が小さくなります。
ソフトバンクは2021年3月期の本業の売上が5.6兆、投資の収入が7.5兆なので投資会社の性質が強いです。
2021年5月には投資先のユニコーン数(企業価値10億ドル以上の未上場企業)ランキングで世界2位になっています。
輸送用機器
業界中央値は1回、トヨタ自動車は0.44回、本田技研工業は0.6回、日産自動車は0.48回です。
その他製品
業界中央値は0.9回、任天堂は0.72回、凸版印刷は0.62回、大日本印刷は0.73回です。
倉庫・運輸関連
業界中央値は0.9回、近鉄エクスプレスは1.45回、上組は0.65回、三井倉庫ホールディングスは1.06回です。
近鉄エクスプレスは近畿日本鉄道の国際貨物部門が1970年に独立してできた会社で、荷物の輸送がメインです。
自社のコンテナターミナル(コンテナの海上と陸地を結ぶ湾岸施設)を持つ上組や三井倉庫の保管事業用倉庫とは違って
独自で大きな施設を持つ必要性が低いため、総資産回転率が高くなります。
非鉄金属
業界中央値は0.9回、住友電気工業は0.86回、三菱マテリアルは0.73回、古河電気工業は0.98回です。
ゴム製品
業界中央値は0.9回、ブリヂストンは0.71回、住友ゴム工業は0.81回、横浜ゴムは0.66回です。
石油・石炭製品
業界中央値は0.9回、ENEOSホールディングスは0.95回、出光興産は1.15回、コスモエネルギーホールディングスは1.31回です。
電気機器
業界中央値は0.8回、日立製作所は0.74回、パナソニックは0.98回、三菱電機は0.87回です。
機械
業界中央値は0.8回、三菱重工業は0.77回、ダイキン工業は0.77回、小松製作所は0.58回です。
化学
業界中央値は0.8回、三菱ケミカルホールディングスは0.62回、富士フイルムホールディングスは0.62回、住友化学は0.57回です。
金属製品
業界中央値は0.8回、LIXILは0.79回、東洋製罐グループホールディングスは0.72回、日本発條は1.02回です。
ガラス・土石製品
業界中央値は0.8回、AGCは0.56回、太平洋セメントは0.83回、TOTOは0.9回です。
繊維製品
業界中央値は0.8回、東レは0.66回、帝人は0.81回、東洋紡は0.69回です。
精密機器
業界中央値は0.8回、オリンパスは0.62回、テルモは0.45回、ニコンは0.46回です。
鉄鋼
業界中央値は0.8回、日本製鉄は0.64回、JFEホールディングスは0.69回、神戸製鋼所は0.66回です。
パルプ・紙
業界中央値は0.8回、王子ホールディングスは0.69回、日本製紙は0.65回、レンゴーは0.78回です。
空運業
業界中央値は0.8回、ANAホールディングスは0.23回、日本航空は0.23回、パスコは0.82回です。
ANAの2019年の総資産回転率は77%、2018年は77%です。
日本航空の総資産回転率は2019年が77%、2018年が77%です。
陸運業
業界中央値は0.7回、日本通運は1.27回、東日本旅客鉄道は0.2回、東海旅客鉄道は0.09回です。
鉄道事業は大きな設備投資から徐々に利益を回収するビジネスのため、総資産回転率が低いビジネスです。
東日本旅客鉄道で一番多く資産を持っているセグメントは不動産・ホテル事業の1.6兆円、次に多いのが運輸事業です。
不動産・ホテル事業は賃貸住宅を扱っているため、鉄道事業以上に総資産回転率が低いです。
(詳細は次の「不動産」を参照)
東日本旅客鉄道
- 不動産・ホテル事業:0.16回
- 運輸事業:0.16回
- 流通・サービス事業:0.89回
- その他(クレジットカード・Suica事業など):0.08回※
東海旅客鉄道
- 不動産業:0.11回
- 運輸業:0.06回
- 流通業:1.39回
- その他(ホテル業、旅行業など):0.26回
※その他の事業の売上はほとんどがグループ内売上。
外部顧客への売上はその他事業全体の37%のため、総資産回転率が低い
なお東海旅客鉄道の2019年の運輸業は総資産回転率が0.16回と、2020年の2.7倍です。
コロナで新幹線の売上が特に影響を受け、総資産回転率が下がりました。
不動産業
業界中央値は0.6回、三井不動産は0.26回、飯田グループホールディングスは0.99回、三菱地所は0.2回です。
不動産業、特に賃貸は大きく投資して利益を少しずつ回収するため、総資産回転率が低くなります。
但し比較的運営費や人件費が少ないため、利益率は高いビジネスです。
セグメント情報を見ると、2020年度は三井不動産の売上の31%が賃貸ビジネス、三菱地所の売上の55%がコマーシャル不動産事業(商業用ビルの開発・賃貸)です。
一方で飯田ホールディングスのセグメントは戸建て分譲事業・マンション分譲事業・請負工事事業・その他で構成されています。
分譲とは土地と建物のセット販売のことで、飯田ホールディングスは事業を不動産販売で構成しているために、総資本回転率が高くなります。
鉱業
業界中央値は0.6回、INPEXは0.17回、石油資源開発は0.38回、日鉄鉱業は0.63回です。
医薬品
業界中央値は0.5回、武田薬品工業は0.25回、大塚ホールディングスは0.54回、アステラス製薬は0.55回です。
電気・ガス業
業界中央値は0.5回、東京電力ホールディングスは0.49回、関西電力は0.38回、中部電力は0.52回です。
海運業
業界中央値は0.5回、日本郵船は0.76回、商船三井は0.47回、川崎汽船は0.64回です。
まとめ
- 総資産回転率は会社の資産・負債から効率よく売上をあげているか分かり、高いほど経営の効率がいい
- 総資産回転率 = 売上高/総資産
- 大きく投資して少しずつ回収する不動産賃貸業などは総資産回転率が小さくなる
最後までお読みいただきありがとうございました!
参考URL:
総資産回転率の目安は? 計算方法をわかりやすく解説
総資本回転率から見る財務分析のしかたと改善方法
財務分析(4)総資本回転率で企業の“ぜい肉”を判定する