こんにちは!レイです!
「業界目安の完全版」シリーズ第六弾は収益性(企業が稼ぐ力)分析の1つ、経常利益率です。
29業種の大手企業をグラフで比較しているので、業種や企業によってどのくらいの差があるのか一目で分かります。
経常利益率とは
経常利益率は収益性分析の代表的な指標で、経常利益が売上の何%を占めているかを表します。
経常利益率=経常利益 / 売上高
経常利益は営業利益から営業外収益を足し、営業外費用を引いて残ったもうけです。
本業の利益と本業以外の利益を合わすことで、経常利益は企業の収益力を示しています。
営業利益は本業の収益力を示しますが、経常利益は本業以外の収益もふまえた企業の経営成績を表す数値です。
ただし、不動産の売却益や突発的な災害による損失は計算されていません。
経常利益率が営業利益率より高いのは、株式売却や配当金で得た営業外利益が営業外費用を上回り、本業で使い切れない資産を有効に活用している証拠です。
経常利益率が営業利益率より低いのは、借入金の利息や株式売却損などが営業外利益を上回ったときです。
以下に営業外収益・費用の例を記載します。
営業外収益
- 受取利息
- 受取手数料
- 受取配当金
- 有価証券評価益
- 有価証券売却益
- 仕入割引など
営業外費用
- 支払利息
- 社債利息
- 手形売却損
- 手形割引料
- 売上割引
- 雑損失など
経常利益率の目安
平成29年の中小企業実態基本調査では、経常利益率の平均値は不動産業・物品賃貸業の8.6%が業種別でもっとも高く、
次いで学術研究、専門・技術サービス業が8.7%、情報通信業が5.5%です。
経常利益率が高い業種1~3位は営業利益率の1~3位と変わりません。
出典:中小企業庁「平成29年中小企業実態基本調査報告書」
経常利益率は1~2%台が多く、10%もあればかなり利益がでている事業といえます。
経常利益率業界ランキング
先ほどの経常利益率の目安は中小企業が対象ですが、上場企業のデータを使って
2020年に公開された有価証券報告書から証券取引所で定められている全業種について経常利益率の中央値をランキングにしました。
※金融業は決算項目が特殊であるため除外
業種中央値の経常利益率ランキングのトップは情報・通信業の8.0%です。
営業利益では情報・通信業は2位の7.7%でした。
情報・通信業の売上トップ3は日本電信電話(NTT)、ソフトバンク、KDDIとモバイル事業を展開している企業ですが
情報・通信業は492社あり、インターネットで販売者と購入者を仲介するメルカリやココナラも情報・通信業です。
巨額の借入と設備投資を必要としないインターネットビジネスは、営業外費用にあたる支払利子が少ないために相対的に経常利益率が高くなりやすいと想定されます。
業種別経常利益率の比較
先ほどのランキングに掲載した全29業界の中央値・業界売上高1~3位の企業を上から順にグラフにしました。※2020年10月~2021年9月に開示された有価証券報告書を参照
計算はバフェットコードとEXCEL財務分析ツールを使っています。
業界は経常利益率ランキングの高い順で紹介していきます。
経常利益率がマイナスの企業はコロナの影響か確認できるように2019年・2018年の経常利益率も記載しています。
情報・通信業
業界中央値は8%、日本電信電話は13.8%、ソフトバンクグループは100.8%、KDDIは19.5%です。
ソフトバンクはモバイルなど継続事業の売上が5.6兆円、売上原価が2.8兆円で売上総利益は2.9兆円です。
しかし投資損益で7.5兆円を稼ぎ、販管費などの費用を引くと経常利益は5.7兆円になりました。
6.2兆円の利益を上げた投資会社のSVF1およびSVF2はイギリスの会社で
UberやビジネスチャットのSlackなど海外株を中心に保有しています。
2021年5月には投資先のユニコーン数(企業価値10億ドル以上の未上場企業)ランキングで世界2位になりました。
上位10社のうち6社が米国、3社が中国(香港含む)、1社が日本です。
しかし前年は投資で1.4兆円の損失を出し、常に多大な利益を出すのは巨大な投資会社でも難しいようです。
鉱業
業界中央値は7.5%、国際石油開発帝石は32.2%、石油資源開発は4.2%、日鉄鉱業は8.1%です。
INPEXはかなり高い経常利益率ですが、これでもコロナで需要が減って石油価格が低下したことによって打撃を受けています。
2019年の経常利益率は51.1%、2018年は53.5%でした。
不動産業
業界中央値は6.9%、三井不動産は8.4%、飯田グループホールディングスは8.2%、三菱地所は17.5%です。
三菱地所は丸の内に強力な地盤を持っています。
丸の内だけでも貸し付けているオフィスの面積は約170万㎡で、丸ビル1フロアーが約2000㎡なので
少なくとも850階建ての丸ビルと同じ広さの土地を丸の内に持っています。
丸の内以外の東京オフィスは150万㎡を貸し付けており、こちらは丸の内だけの面積より少し少なく丸ビル750階建ての広さです。
営業収益は丸の内が2482億円、丸の内以外の東京が1405億円と圧倒的な差があり
丸の内の土地の収益性が高いことが分かります。
化学
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業界中央値は6.5%、三菱ケミカルホールディングスは1.0%、富士フイルムホールディングスは10.8%、住友化学は6%です。
空運業
業界中央値は6.5%、ANAホールディングスは-61.9%、日本航空は-84%、パスコは8.4%です。
ANAの2019年の経常利益率は3.0%、2018年は7.6%です。
日本航空の経常利益率は2019年が6.4%、2018年が11.8%です。
機械
業界中央値は6.4%、三菱重工業は1.3%、ダイキン工業は9.6%、小松製作所は7.4%です。
業界トップの三菱重工の売上高は3.7兆円、ダイキン工業の売上高は2.5兆円ですが
経常利益額は逆転して三菱重工が406億円、ダイキン工業の2402億円となり
企業の収益力はダイキン工業の方が6倍近く高いです。
三菱重工は国際会計基準を採用しているため営業利益率は不明ですが
売上総利益は三菱重工業は16%、ダイキン工業は35%、小松製作所は27%です。
三菱重工とダイキン工業の差は、売上総利益がダイキン工業が三菱重工の2.1倍、営業利益率はダイキン工業が7.3倍です。
三菱重工はコロナの影響もあって開発を停止したスペースジェットの人件費・維持費に2019年2633億円、2020年1162億円の費用がかかっています。
医薬品
業界中央値は5.8%、武田薬品工業は11.5%、大塚ホールディングスは13.4%、アステラス製薬は11.6%です。
建設業
業界中央値は5.7%、大和ハウス工業は8.2%、積水ハウスは7.5%、大林組は7.3%です。
ガラス・土石製品
業界中央値は5.7%、AGCは4%、太平洋セメントは7.6%、TOTOは7.1%です。
サービス業
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業界中央値は5.3%、日本郵政は7.8%、リクルートホールディングスは7.4%、博報堂DYホールディングスは3.8%です。
陸運業
業界中央値は5.3%、東日本旅客鉄道は-32.9%、日本通運は3.9%、東海旅客鉄道は-31.8%です。
東日本旅客鉄道の2019年の経常利益率は11.5%、2018年は14.8%でした。
東海旅客鉄道の2019年経常利益率は31.1%、2018年は33.7%でした。
パルプ・紙
業界中央値は5.2%、王子ホールディングスは6.1%、日本製紙は1.2%、レンゴーは6.3%です。
精密機器
業界中央値は5.1%、オリンパスは10.5%、テルモは15.8%、ニコンは-10%です。
ニコンの2019年の経常利益率は2.0%、2018年は12.4%です。
金属製品
業界中央値は4.8%、LIXILは2.5%、東洋製罐グループホールディングスは3.6%、日本発條は2.5%です。
電気機器
業界中央値は4.8%、日立製作所は9.7%、パナソニックは3.9%、三菱電機は6.2%です。
電気・ガス業
業界中央値は4.8%、東京電力ホールディングスは3.2%、関西電力は5%、中部電力は6.5%です。
倉庫・運輸関連
業界中央値は4.7%、近鉄エクスプレスは5.7%、上組は9.8%、三井倉庫ホールディングスは6.8%です。
ゴム製品
業界中央値は4.6%、ブリヂストンは1%、住友ゴム工業は3.8%、横浜ゴムは5.9%です。
ブリヂストンは2019年の経常利益率が9.6%ですが
2020年は集合住宅用ユニットバス事業を2019年に譲渡したときの費用や
タイの鉱山建設車両用タイヤの事業環境が悪化したことによる減損がひびきました。
鉄鋼
業界中央値は4.5%、日本製鉄は-0.2%、JFEホールディングスは-0.2%、神戸製鋼所は0.9%です。
日本製鉄の2019年の経常利益率は-7.2%、2018年は4.0%です。
JFEホールディングスの2019年の経常利益率は-5.7%、2018年は5.4%です。
その他製品
業界中央値は4.2%、凸版印刷は4%、大日本印刷は4.5%、任天堂は38.6%です。
食料品
業界中央値は4%、日本たばこ産業は20.1%、アサヒグループホールディングスは6.2%、キリンホールディングスは6.7%です。
繊維製品
業界中央値は3.4%、東レは3.5%、帝人は6.4%、東洋紡は6.1%です。
非鉄金属
業界中央値は3.3%、住友電気工業は3.9%、三菱マテリアルは3%、古河電気工業は0.6%です。
海運業
業界中央値は2.7%、日本郵船は13.4%、商船三井は13.5%、川崎汽船は14.3%です。
水産・農林業
業界中央値は2.5%、マルハニチロは2.1%、日本水産は3.5%、極洋は2%です。
輸送用機器
業界中央値は2.5%、トヨタ自動車は10.8%、本田技研工業は6.9%、日産自動車は-2.8%です。
日産は2019年が0.4%、2018年が4.7%です。
小売業
業界中央値は2.4%、イオンは1.6%、セブン&アイ・ホールディングスは6.2%、ファーストリテイリングは7.6%です。
卸売業(商社)
業界中央値は2.2%、三菱商事は2%、伊藤忠商事は4.9%、三井物産は5.6%です。
卸売業(商社以外)
業界中央値は2.2%、メディパルホールディングスは1.6%、アルフレッサホールディングスは1.2%、三菱食品は0.7%です。
石油・石炭製品
業界中央値は0.8%、ENEOSホールディングスは3%、出光興産は2.4%、コスモエネルギーホールディングスは4.4%です。
まとめ
- 経常利益は本業の利益に営業外利益・費用を足し引きした利益
- 経常利益率で企業の収益力が分かる
- ソフトバンクのように投資など営業外の利益が経常利益を押し上げることもある
最後までお読みいただきありがとうございました!
参考URL:
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