業種別指標

「自己資本比率」業界目安の完全版~「借入のご利用は計画的に。」守れてる?

こんにちは!レイです!

業界目安の完全版、第3回は自己資本比率です!

29業種の大手企業をグラフで比較しているので、業種や企業によってどのくらいの差があるのか一目で分かります。

自己資本比率とは

自己資本比率は安全性分析でメジャーな指標のひとつで、自己資本が総資産の何%を占めているかを表します。

自己資本とは、株主から集めたお金や会社が過去に稼いだ利益のことで、返済する必要がない会社のお金です。

貸借対照表上に自己資本の項目はなく、「純資産 - 新株予約権 - 非支配株主持分」で計算できます。

総資産のうち自己資本でないものは借り入れなどの他人資本と呼ばれ、返済する必要があります。

流動比率・固定比率も会社の安全性を見る指標ですが、流動比率は短期・固定比率は長期の安全性を見ます。

一方で自己資本比率は短期・長期を総合して安全性を確認できます。

自己資本比率が高いほど安全性が高く、倒産しにくい企業です。

自己資本比率の目安

自己資本比率が50%以上だと負債より自己資本の方が多いということなのでかなり堅実な経営です。

少なくとも30%以上は維持しておくとよいと言われています。

自己資本比率は、設備投資があまり必要ない企業は大きく、流動資産が多い小売業などは小さくなる傾向があります。

製造業など固定資産を多く使う業種は、20%が目安になります。
商社や卸売業など、固定資産が少なく、その代わりに流動資産である売掛金や在庫などが多い業種は15%が目安になります。
情報通信業のように、IT企業が多い業界では設備投資があまり必要がないことから、40%を超える企業が多く存在しています。

https://doda.jp/companyinfo/contents/finance/009.html

一方で、自己資本比率が高すぎると安全性では問題ないものの

会社は資源を効率よく使えておらず、成長性が低いと見られる可能性があります。

自己資本比率業界ランキング

各業界上場企業の2021年3月の中央値を証券取引所で定められている全業種について自己資本比率でランキングにしました。
※金融業は決算項目が特殊であるため除外

業種中央値の自己資本比率ランキングのトップは医薬品の73%です。

流動比率で1位・固定比率で2位だったため、短期・長期のどちらでみても安全性が高いです。

とはいえ29業種中28位までが自己資本比率30%以上のため、上場企業の平均的な財務状勢は健全であることが分かります。

大企業なら株式を発行することによる資金調達が可能ですが、

中小企業は金融機関からの借入に依存しなければならず

大企業より中小企業の方が自己資本比率が低くなる傾向があります。

経産省の商工業実態基本調査では、中小企業の製造業・卸売業・小売業全てで

自己資本比率の平均値が大企業より小さく(長期的な安全性が低く)なりました。

業界別自己資本比率の比較

先ほどのランキングに掲載した全29業界の中央値・業界売上高1~3位の企業(流動比率ランキングと同じ企業)を上から順にグラフにしました。
※2020年10月~2021年9月に開示された有価証券報告書を参照

計算はバフェットコードEXCEL財務分析ツールを使っています。

業界は自己資本比率ランキングの高い順で紹介していきます。

レイ
レイ
今回は次章の固定比率・自己資本比率の差がメインのため、この章は読み飛ばしても大丈夫です。

医薬品

中央値は73%、武田薬品工業は40%、大塚ホールディングスは70%、アステラス製薬が61%です。

武田薬品の固定資産は約4割がのれんです。

武田薬品は2019年1月にアイルランド製薬大手のシャイアーを6.2兆円という日本企業史上最大の金額で買収しています。

2011年に77%あった自己資本比率は10年で37%減りました。

それでも自己資本比率は30%以上で健全といわれるため、まだ安全性を懸念するまでにはいたらないようです。

情報・通信業

中央値は63%、日本電信電話が33%、ソフトバンクグループが22%、KDDIが45%です。

ソフトバンクのように、企業買収など積極的に投資を行っている企業は自己資本比率が低くなります。

精密機器

業界中央値は61%、オリンパスは33%、テルモは63%、ニコンは54%です。

機械

業界中央値は60%、三菱重工業は28%、ダイキン工業は51%、小松製作所は51%です。

化学

業界中央値は59%、三菱ケミカルホールディングスは23%、富士フイルムホールディングスは62%、住友化学は26%です。

鉱業

業界中央値は59%、INPEXは59%、石油資源開発は64%、日鉄鉱業は59%です。

金属製品

業界中央値は58%、LIXILは32%、東洋製罐グループホールディングスは60%、日本発條は51%です。

その他製品

業界中央値は58%、凸版印刷は56%、大日本印刷は57%、任天堂は77%です。

任天堂は流動比率・固定比率で登場企業の中のトップをとりましたが、自己資本比率ではトップではありません。

電気機器

業界中央値は57%、日立製作所は30%、パナソニックは38%、三菱電機は57%です。

ガラス・土石製品

業界中央値は55%、AGCは44%、太平洋セメントは45%、TOTOは57%です。

繊維製品

業界中央値は55%、東レは43%、帝人は39%、東洋紡は38%です。

食料品

業界中央値は53%、日本たばこ産業は47%、アサヒグループホールディングスは34%、キリンホールディングスは34%です。

サービス業

業界中央値は53%、日本郵政は5%、リクルートホールディングスは50%、博報堂DYホールディングスは35%です。

日本郵政の実態はゆうちょ銀行とかんぽ生命を子会社に持つ金融業の会社です。

イオンと同様に金融業の特性上自己資本比率が低くなります。

鉄鋼

業界中央値は52%、日本製鉄は36%、JFEホールディングスは36%、神戸製鋼所は28%です。

非鉄金属

業界中央値は52%、住友電気工業は48%、三菱マテリアルは27%、古河電気工業は31%です。

建設業

業界中央値は51%、大和ハウス工業は36%、積水ハウスは51%、大林組は41%です。

倉庫・運輸関連

業界中央値は50%、近鉄エクスプレスは33%、上組は84%、三井倉庫ホールディングスは26%です。

回登場した企業の中で流動比率・固定比率でトップを維持した任天堂をおさえ

もっとも自己資本比率が高い企業になったのは上組です。

任天堂は資産のほとんどが流動資産であり、流動比率・固定比率でかなり高い数値がでましたが

流動・固定の割合に関係なく計算する自己資本比率では上組がトップとなりました。

上組は神戸市に拠点を置く物流事業を展開する会社で、港湾運送業の最大手です。

江戸時代末期、1867年に神戸港開港とともに創業し、船の荷物の積み下ろし・保管・仕分け・出庫など

スケジュール調整を含めて物流を総合的にコントロールしています。

パルプ・紙

業界中央値は48%、王子ホールディングスは38%、日本製紙は27%、レンゴーは36%です。

輸送用機器

業界中央値は47%、トヨタ自動車は38%、本田技研工業は41%、日産自動車は24%です。

ゴム製品

業界中央値は47%、ブリヂストンは51%、住友ゴム工業は47%、横浜ゴムは48%です。

卸売業(商社以外)

業界中央値は47%、メディパルホールディングスは31%、アルフレッサホールディングスは37%、三菱食品は29%です。

卸売業(商社)

業界中央値は47%、三菱商事は30%、伊藤忠商事は30%、三井物産は37%です。

小売業

業界中央値は45%、イオンは8%、セブン&アイ・ホールディングスは38%、ファーストリテイリングは40%です。

イオンの自己資本比率は低いですが、子会社にイオン銀行があり、般的に金融業の自己資本比率は低くなるためイオンの財務は健全と言われています。

空運業

業界中央値は41%、ANAホールディングスは31%、日本航空は45%、パスコは32%です。

陸運業

業界中央値は40%、東日本旅客鉄道は28%、日本通運は36%、東海旅客鉄道は38%です。

石油・石炭製品

業界中央値は39%、ENEOSホールディングスは29%、出光興産は29%、コスモエネルギーホールディングスは19%です。

水産・農林業

業界中央値は38%、マルハニチロは27%、日本水産は36%、極洋は35%です。

不動産業

業界中央値は35%、三井不動産は33%、飯田グループホールディングスは58%、三菱地所は30%です。

電気・ガス業

業界中央値は30%、東京電力ホールディングスは26%、関西電力は21%、中部電力は36%です。

海運業

業界中央値は27%、日本郵船は29%、商船三井は28%、川崎汽船は22%です。

固定比率・自己資本比率は両方分析しなくてもいい?

これまで流動比率・固定比率・自己資本比率で安全性をみてきましたが、

はたして3つとも分析する必要があるのか疑問がでてきました。

長期的には安全でも1年で倒産してしまっては意味がないので

特に創業して間もない急成長中の企業の分析では、直近1年間の安全性が分かる流動比率を確認する必要性を感じます。

ただし今回見てきたような売上が業界トップ3位の大手企業が

1年で潰れることはほとんど考えにくいので優先順位は下げておきます。

問題は固定比率と自己資本比率です。

固定比率は長期的な安全性を見る指標ですが

固定比率で計算したとき自己資本比率で計算したときの安全性に大きく差があるのか検証してみました。

業界をまたいで指標を比べることはできませんが、

同じ業界内で固定比率・自己資本率の順位がどれくらい入れ替わっているか調べてみます。
※固定比率の詳細記事はこちら>>>固定資産のために借金しない→長期的に安全!~「固定比率」業界比較の完全版

表の一番右の列が、業界内の固定比率と自己資本比率の順位の差です。

1位から3位になった場合-2、3位から1位になったら2になります。

0だったら順位は変わりなしです。

業界名企業名固定比率順位自己資本比率順位
ガラス・土石製品AGC150%244%31
ガラス・土石製品TOTO87%157%10
ガラス・土石製品太平洋セメント152%345%2-1
ゴム製品住友ゴム工業118%247%31
ゴム製品ブリヂストン99%151%10
ゴム製品横浜ゴム133%348%2-1
サービス業博報堂DYホールディングス95%135%21
サービス業リクルートホールディングス116%250%3-1
その他製品大日本印刷98%257%20
その他製品凸版印刷98%356%30
その他製品任天堂23%177%10
電気機器パナソニック113%238%20
電気機器日立製作所168%330%30
電気機器三菱電機71%157%10
パルプ・紙王子ホールディングス175%138%10
パルプ・紙日本製紙246%327%30
パルプ・紙レンゴー179%236%20
医薬品アステラス製薬101%261%20
医薬品大塚ホールディングス88%170%10
医薬品武田薬品工業197%340%30
卸売業(商社)伊藤忠商事208%330%2-1
卸売業(商社)三井物産182%137%21
卸売業(商社)三菱商事205%230%1-1
卸売業(商社以外)アルフレッサホールディングス66%137%10
卸売業(商社以外)三菱食品77%229%31
卸売業(商社以外)メディパルホールディングス97%331%30
化学住友化学236%226%20
化学富士フイルムホールディングス93%162%10
化学三菱ケミカルホールディングス282%323%30
海運業川崎汽船325%322%30
海運業商船三井306%228%20
海運業日本郵船254%129%10
機械小松製作所94%251%20
機械ダイキン工業90%151%10
機械三菱重工業172%328%30
金属製品LIXIL200%332%30
金属製品東洋製罐グループホールディングス89%160%10
金属製品日本発條94%251%20
空運業ANAホールディングス197%331%30
空運業日本航空162%245%1-1
空運業パスコ65%132%21
建設業大林組108%241%20
建設業積水ハウス64%151%10
建設業大和ハウス工業147%336%30
鉱業INPEX155%359%21
鉱業石油資源開発101%264%11
鉱業日鉄鉱業91%159%3-2
小売業イオン448%38%30
小売業セブン&アイ・ホールディングス135%238%20
小売業ファーストリテイリング79%140%10
情報・通信業KDDI147%145%10
情報・通信業ソフトバンクグループ342%322%30
情報・通信業日本電信電話233%233%20
食料品アサヒグループホールディングス247%334%2-1
食料品キリンホールディングス190%234%31
食料品日本たばこ産業134%147%10
水産・農林業極洋74%135%21
水産・農林業日本水産144%236%1-1
水産・農林業マルハニチロ163%327%30
精密機器オリンパス152%333%30
精密機器テルモ97%263%1-1
精密機器ニコン58%154%21
石油・石炭製品ENEOSホールディングス216%229%20
石油・石炭製品出光興産199%129%10
石油・石炭製品コスモエネルギーホールディングス340%319%30
繊維製品帝人124%139%21
繊維製品東洋紡150%338%30
繊維製品東レ135%243%1-1
倉庫・運輸関連上組91%184%10
倉庫・運輸関連近鉄エクスプレス131%233%20
倉庫・運輸関連三井倉庫ホールディングス279%326%30
鉄鋼神戸製鋼所201%336%2-1
鉄鋼ジェイ エフ イー ホールディングス165%128%32
鉄鋼日本製鉄178%236%1-1
電気・ガス業関西電力420%321%30
電気・ガス業中部電力248%136%10
電気・ガス業東京電力ホールディングス337%226%20
非鉄金属住友電気工業101%148%10
非鉄金属古河電気工業155%231%20
非鉄金属三菱マテリアル183%327%30
不動産業飯田グループホールディングス44%158%10
不動産業三井不動産207%233%20
不動産業三菱地所265%330%30
輸送用機器トヨタ自動車169%338%2-1
輸送用機器日産自動車155%124%32
輸送用機器本田技研工業158%241%1-1
陸運業東海旅客鉄道181%238%1-1
陸運業日本通運148%136%21
陸運業東日本旅客鉄道316%328%30

差の列を集計すると、「2あるいは-2」が3個、「1あるいは-1」が28個、「差が0」が59個で、

固定比率と自己資本比率の安全性の順位は業界内で大きく変わらないことが分かります。

個人的には大手企業を分析する場合は1年以内に倒産する確率が低いので

流動比率・固定比率・自己資本比率の中では長期の安全性に絞った固定比率が優先順位が高くなると考えます。

ただし、今回の登場企業で流動比率・固定比率のトップをとった任天堂をおさえて

自己資本比率では上組がトップをとったように

流動比率・固定比率は資産に占める流動資産の割合が大きい企業が安全に見えることに注意です。

まとめ

  • 自己資本比率は総資産のうち自己資本が占める割合のことで、短期・長期を総合して安全性を確認できる
  • 自己資本比率が高いほど安全性が高い
  • 各業界の売上高が上位3社のうち、自己資本比率がもっとも高い企業は上組(自己資本比率84%)
  • 大手企業において固定比率・自己資本比率で分かる安全性の差は大きくない

最後までお読みいただきありがとうございました!

参考URL:
自己資本比率とは?業種別では何%くらいが目安なの?
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