業種別指標

「棚卸資産回転期間」業界目安の完全版~今日の在庫、あと何日でさばける?

こんにちは!レイです!

「業界目安の完全版」シリーズ第13回は棚卸資産回転率です。

29業種の大手企業をグラフで比較しているので、業種や企業によってどのくらいの差があるのか一目で分かります。

棚卸資産回転期間とは

棚卸資産回転期間は効率性分析の一つで、商品の在庫を効率よく保有できているかが分かります。

棚卸資産とは売れる前の商品(在庫)のことで、流動資産の1つです。

製造中の製品や材料も棚卸資産に含まれます。

回転とは、商品を作って(仕入れて)販売するまでのサイクルです。

棚卸資産回転期間は、棚卸資産を1日あたりの売上原価で割って求めます。

卸資産回転期間 = 棚卸資産 / 1日あたりの売上原価
1日あたりの売上原価 = 売上原価 ÷ 365

棚卸資産回転期間は、期末時点の在庫が何日でさばけるのか分かります。単位は「年・月・日」です。

製造業の場合は、材料が商品になるまでの大体の日数が分かります。

棚卸資産回転期間は小さいほうが売り上げるスパンが短く効率がいいと言われていますが、低すぎると在庫不足を起こします。

逆に高い場合は、不良在庫が存在している可能性があります。

棚卸資産回転率と似ているため被っている内容も多いですが、回転率が低い企業同士で比べ場合、棚卸資産回転期間のほうがはっきり差がわかります。

逆に回転率が高い企業同士で比べる場合、棚卸資産回転率のほうがはっきり差が出ます。

レイ
レイ
例えば棚卸資産回転率は大和ハウスが2.81回、積水ハウスが2.08回ですが
棚卸資産回転数は大和ハウスが39.70日、積水ハウスが175.30日です。

棚卸資産回転率期間の目安

一般的に小売業は20~30日、製造業は40~50日、棚卸資産のメインが食材である飲食業は10~20日が標準です。

回転ずしなど、生ものを扱う飲食店ならもっと短くなります。

製造業は原材料から製品になるまで製造する分、材料と在庫を保有する期間が長く、棚卸資産回転期間は長くなる傾向があります。

卸売業・小売業は商品を仕入れてから販売するまでの期間が短いため、棚卸資産回転期間が短くなりやすいです。

運輸業や宿泊・飲食サービスなど棚卸資産自体が少なく、従業員や設備の稼働によって売上が上がる業種も棚卸資産回転期間が短くなります。

効率性を比べるときは、同じビジネスモデルの会社同士か、1つの会社を時系列で比べる必要があります。

業種別棚卸資産回転期間の比較

証券取引所の金融を除く全29業種について、売上高1~3位の企業の棚卸資産回転期間をグラフにしています。
※2020年10月~2021年9月に開示された有価証券報告書を参照

計算はバフェットコードEXCEL財務分析ツールを使っています。

業種によって回転期間にどのくらいの差があるのか確認してみてください。

レイ
レイ
補足・考察がある業界は下線で強調しています。

倉庫・運輸関連

上組は1日、三井倉庫ホールディングスは1日です。

倉庫・運輸業の棚卸資産は燃料費や梱包材などでほとんど在庫を持たず、在庫を売る必要もないため、総資産回転期間が短くなります。

陸運業

日本通運は5日、東日本旅客鉄道は40日、東海旅客鉄道は18日です。

陸運業の棚卸資産は燃料費や梱包材などで、ほとんど在庫を持たない業種です。

鉄道会社は不動産事業を手がけており、その影響で鉄道事業より棚卸資産回転期間が長くなります。

サービス業

博報堂DYホールディングスは7日です。

サービス業は在庫を持つ必要がないビジネスが多く、棚卸資産回転期間が短くなりやすいです。

博報堂は広告をスポンサーから仕入れてテレビ局に販売するビジネスで、棚卸資産に仕入れた広告の費用が含まれますが回転期間の短さから、仕入れた広告をすぐにテレビ局などに販売できる仕組みを作っていることが分かります。

鉱業

INPEXは76日、石油資源開発は29日、日鉄鉱業は89日です。

パルプ・紙

王子ホールディングスは75日、日本製紙は97日、レンゴーは40日です。

食料品

日本たばこ産業は219日、アサヒグループホールディングスは52日、キリンホールディングスは76日です。

日本たばこ産業はたばこの製造に時間がかかるため、棚卸資産回転期間が長くなります。

入荷したたばこは原料にするための工程と製品にするための工程をへて商品になります。

原料にする工程で貯蔵・熟成に1年以上かかるため在庫の保管期間が長くなります。

他にも何度も乾燥させたり、たばこの葉を刻む、フィルターの挿入、紙で巻くといった工程があります。

しかしたばこの売上原価には税負担60%のたばこ税が入っているため

売上原価が実際の材料費より大きくなり、計算上の総資産回転期間は実態より短くなります。

海運業

日本郵船は10日、商船三井は12日、川崎汽船は24日です。

情報・通信業

ソフトバンクグループは17日、KDDIは9日です。

建設業

大和ハウス工業は130日、積水ハウスは175日、大林組は36日です。

建設業の棚卸資産は主に5つです。

  • 販売用不動産
  • 仕掛品(未成工事支出金)
  • 原材料
  • 商品・製品
  • 貯蔵品

大和ハウス・積水ハウスは戸建て住宅・賃貸住宅をメインで扱っており、建物を建設してから販売するため一定の在庫を持つ必要があります

対照的に大林組は公共施設・オフィス・インフラをメインに扱っており、受注してから建設するので在庫を抱える必要がありません。

ただ、建設期間が36日と考えるのはあまりにも短すぎます。

2020年の売上原価の63%が外注費であることから、建築物の卸売業のような役割を担っているため

回転期間が短くなっていることが考えられます。

大和ハウスと積水ハウスの差については、大和ハウスは日本の人口減少に備えて商業施設などの法人向け事業を手掛けている一方

積水ハウスは海外の住宅事業に進出しているという戦略の違いも反映されています。

卸売業(商社)

三菱商事は44日、伊藤忠商事は38日、三井物産は31日です。

卸売業(商社以外)

メディパルホールディングスは20日、アルフレッサホールディングスは23日、三菱食品は11日です。

化学

三菱ケミカルホールディングスは90日、富士フイルムホールディングスは115日、住友化学は123日です。

その他製品

任天堂は64日、凸版印刷は42日、大日本印刷は56日です。

繊維製品

東レは89日、帝人は107日、東洋紡は125日です。

水産・農林業

マルハニチロは76日、日本水産は99日、極洋は76日です。

ガラス・土石製品

AGCは95日、太平洋セメントは49日、TOTOは93日です。

金属製品

LIXILは72日、東洋製罐グループホールディングスは82日、日本発條は48日です。

空運業

ANAホールディングスは40日、パスコは4日です。

パスコはセコムの子会社で、航空写真撮影や人工衛星のデータを活用した災害モニタリングのサービスなどを行っています。

注文を受けてから納品するビジネスなので在庫を持たず

棚卸資産は燃料など流動性の高いものしか含まれないため、回転期間が短くなります。

ANAの在庫には空港の土産物店「ANA FESTA」の在庫などがあります。

また、子会社のANAフーズはコンビニなどに生鮮食品・加工食品をおろしており

日本で販売されるバナナの約10%を取り扱っています。

輸送用機器

トヨタ自動車は50日、本田技研工業は54日、日産自動車は95日です。

非鉄金属

住友電気工業は93日、三菱マテリアルは143日、古河電気工業は81日です。

小売業

イオンは56日、セブン&アイ・ホールディングスは37日、ファーストリテイリングは148日です。

電気機器

日立製作所は92日、パナソニックは64日、三菱電機は90日です。

鉄鋼

日本製鉄は116日、JFEホールディングスは98日、神戸製鋼所は130日です。

ゴム製品

ブリヂストンは94日、住友ゴム工業は99日、横浜ゴムは105日です。

不動産業

三井不動産は440日、飯田グループホールディングスは145日、三菱地所は149日です。

デベロッパー(不動産業)は土地を仕入れて活用方法を考え、マーケティング・販売まで担当するため、棚卸資産回転期間が長くなります。

三井不動産は投資用マンションなどの「販売用不動産」「仕掛販売用不動産」を多く持っており

大規模開発を多く手掛けていることで棚卸資産回転期間が長くなっていると考えられます。

戸建ての場合は建設開始から引き渡しまで約3~4カ月かかるため、棚卸資産回転期間が100日ほどになるのが一般的です。

建設会社の棚卸資産回転期間と比べると、大和ハウスが130日、積水ハウスが175日、分譲事業の飯田グループホールディングスが145日、三菱地所が149日となっており

住宅販売事業の棚卸資産回転期間の目安が見えてきます。

石油・石炭製品

ENEOSホールディングスは72日、出光興産は63日、コスモエネルギーホールディングスは50日です。

機械

三菱重工業は84日、ダイキン工業は121日、小松製作所は180日です。

精密機器

オリンパスは214日、テルモは223日、ニコンは291日です。

半導体などの繊細な商品は、出荷前のテストで不合格になる不良品も多く、仕入れた原材料のうち完成品として販売される量は少ないです。

1日当たりの売上原価が棚卸資産に占める割合が小さくなり

実態より棚卸資産回転期間が長くなります。

CPUなどコンピュータ用の部品は、高い基準をクリアした商品が高価なモデルとして出荷され

合格しなかった商品は基準の低い安価なモデル(記録できる容量を減らすなど)として販売されます。

このように1つのの生産ラインで複数の商品を展開することで、市場の需要を満たしています。

医薬品

武田薬品工業は277日、大塚ホールディングスは144日、アステラス製薬は243日です。

医薬品は人体に直接影響を及ぼすため、薬事法とGMP基準によって高い品質の製造・維持管理が求められています。

GMP基準とは厚生労働省の省令で医薬品の製造をする者が守るべき内容を定めたものです。

薬は多くの品質保持期限が設定されており、廃棄される在庫もあります。

これらのことから医薬品は回転期間が長くなります。

電気・ガス業

東京電力・関西電力・中部電力は決算項目が異なるため、売上原価は不明です。

まとめ

  • 棚卸資産回転期間は在庫から効率よく売上をあげているか分かり、短いほど経営の効率がいい
  • 棚卸資産回転期間 = 棚卸資産/1日あたりの売上原価
  • 在庫を持たないビジネスでは棚卸資産回転期間が短くなる
  • 製造工程が多い業界や不良品が多く出る商品は棚卸資産回転期間が低くなる

最後までお読みいただきありがとうございました!

参考URL:異常水準に膨らんだ積水ハウスの「在庫」の正体

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA